第3章 太平洋戦争 東京大空襲を生き抜く③ ~80歳起業 抜粋

※著書《80歳起業》の内容を抜粋しております。

<前回からの続き>

由美子は、防空壕でも川でもなく、病院の裏にある公園に向かいました。
近くで呼吸が苦しくなって倒れる人も見かけました。
そして里美も息苦しくなり、意識がもうろうとしてきて、煙で目も開けられない状態でした。

里美は布団を深くかぶりました。
すると不思議なことに、息ができるようになりました。

きっと布団の中に酸素が残っていたんだ・・・。

里美は布団の中で一呼吸したあと、顔に熱風が当たるのを避けるように布団で体を覆い、
裏の公園に向かいました。

里美は公園の真ん中の何もない広い空間にいき、その中央でしゃがんでしまいました。

ここは広い空間なので火の勢いは若干弱まっていました。
しかし、ふとんの外から見える景色は火、火、火でした。
それを見て、里美は「きゃ!」っと悲鳴をあげ、さらにしゃがんでしまいました。

するとすぐ近くから男の声が微かに聞こえました。

「おねいちゃん、こっちだ」

錯覚と思っていた声は、確かに男の声で、それは地面の下から聞こえました。

里美が数メートル先の地面の下を見ると、トタンのような丈夫そうな板があり、
そこから声がするのがわかりました。

そのトタンの下に男が一人いたのです。

「ここは、公園の砂地の上だ!砂地は火が届きにくい。このトタンの下に隠れるんだ」

里美はすぐにトタンの下にもぐって避難しました。

爆撃は2時間に及びました。爆撃が収まり、火が小さくなり、トタンから出れるようになったのは、
爆撃開始からどのくらい経ってからでしょうか。

里美は時間の感覚さえわからなくなっていました。
里美は一緒にいた男の合図でトタンから出て、外の景色を見てびっくりしました。

木でできた全ての建物は燃えてなくなっていました。

「まだ、歩いてはだめだ!歩くなら夜が明けて明るくなってからだ」

男は里美にそういいました。
公園の木々は熱風でほとんど燃えてしまい、木の原型でさえ留めていませんでした。

もし、男の指示でトタンの下に隠れなければ、布団と一緒に焼かれ、命を失っていたかもしれません。

そして濡れた布団をかぶっていなければ、公園までたどり着くこともできませんでした。

幸いにも、由美子のいじめ道具として布団をかぶせて箒で叩いた記憶が浮かばなければ、
公園までたどり着くことすらできなかったのです。

里美は朝になって町中を歩きました。足をくじいた痛みすら忘れていました。
とにかく里美は歩きました。

髪はチリチリ、服はボロボロになり、里美は病院に行きましたが、すでに建物は燃えてありません。

そして、看護婦や患者は大丈夫かと当初の避難先である防空壕に行きました。
防空壕に着くと、防空壕のそばに数十人が集まっていました。

防空壕は爆撃で入口が塞がっていて、集まっていた人たちが
瓦礫をどかして防空壕に入ったようです。
しかし、全員窒息死していました。

火が燃えると空気中の酸素を消費します。
大火災の影響で防空壕内の酸素がなくなったため、全員、そのまま窒息死したと聞きました。

里美は防空壕の中を見ず、次は第2の避難先である川に行きました。

その川も燃えた死体でいっぱいでした。焼夷弾は油を大量に含んでいて、
川はすでに燃える川となっていたと聞きました。

里美は、最初に「防空壕に逃げて」と指示を出しました。

次に防空壕に行く道が火で覆われ、「川に逃げて」と指示を出しました。
その指示はけっして間違っていませんでした。

しかし、防空壕に逃げた人、川に逃げた人の全員が焼け死にました。
また、逃げる途中の道で焼け死んだ人、窒息死した人もいます。

里美は病院でただ一人の生き残りだったのです。

里美は、そうとは知らず、最後は病院の跡地に戻り、病院の誰かが
戻ってくるのを期待して、しばし待っていたのです。

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